
本のタイトルになっている「深夜特急」とは、脱獄することの隠語だと巻頭にある。なぜ海外旅行に出ることが脱獄なのか、しばらく読み進むと分かってくる。若者が海外へ興味を持つきっかけになる本、バックパッカーのバイブルとも呼ばれるこの本は、若者もそうでない人も、海外に興味がある人も関心のない人にも是非一度は読んで欲しい一冊だと私は思っています。
ストーリーは、インドのデリーからイギリスのロンドンまでバスを乗り継いで行くことをひょんなことから友達と賭けた26才の男性が、安いチケットだが途中2カ所だけ立ち寄れるという特典を利用しないのはもったいないと、先ず立ち寄ったのが香港。なんの予備知識も持たないまま香港に暫く滞在し、インドを目指してマレー半島へ出発するまでが第一巻。その後に第二巻マレー半島・シンガポール、第三巻インド・ネパール、第四巻シルクロード、第五巻トルコ・ギリシャ・地中海と旅を続け、第六巻ヨーロッパ・ロンドンで完結します。個人的には第一巻が一番熱気にあふれていて、これを読んで香港に来たくならない人はいないだろうと思うほど。今回は文庫本で6冊のこのシリーズのうち、第一巻、香港・マカオを取り上げることにしました。
舞台になった香港は1970年代前半なので、現在の香港とはかなり違うはずですが、26才の若者がそこで感じたドキドキ、新鮮さは今の香港も持っていると思います。「香港って街は、なんて刺激的なんだ」は主人公の言葉。「香港は毎日がお祭りなのかもしれない。八時半に日が暮れ、涼みながら夜店を冷やかし、一家で屋台の食事をとり、家に帰って寝る。平凡だがなんという豊かな日常」という言葉に続く「だが、これがはたして日常と言えるのだろうか....」には書かれてから30年以上経った今のほうがどきっとする。子供の孤食なんてことが当たり前でニュースにもならない現在の日本。香港も屋台を一家で囲むということは少なくなったと思うが、家族揃ってレストランのテーブルを囲むのは今でもごく普通に香港で見られる風景だ。
「香港に元気を貰いに来る」とは香港に来られる方からよく伺う言葉ですが、香港は元気をくれると私も思っています。「がさつ」「マナーが悪い」などで香港や香港の人を口汚く言う人も日本人には多いですが、「思ったことはすぐ口にするが不作法ではない」はこんなことを言ったらば、こんなことを聞いたらば、といつも他人の目や口を気にしてなるたけ人と関わらないように暮らす日本での生活より、「人肌のあたたかさ」のような心地よさを感じながら過ごせる香港の生活で元気を貰えると感じる人がいるからだろう。
「香港で何週間か過ごしているうちに、言葉については自分がほとんど不安を持たなくなっているのに気がついた」という一文があります。急に英語がうまくなるはずはなく、「英語に対する萎縮していた心が伸びやかに広がってくる」という一文もありました。片言の広東語、それでも通じなければ漢字で筆談でなんとか最後には理解し合えるんだという確信を、英語の話せない層の人達や街の子供達との会話で深めていく主人公。伸びやかに広がったのは言葉に対してだけではないと思います。
この香港・マカオの第一巻では、日本から香港という外国に飛び込んだ主人公が、「なんて刺激的なんだ」と思う香港で、日本とは異なる非日常に熱くなり、自分が旅に出たことを非常に前向き、肯定的に捉えています。そしてこの姿勢が巻を進めるに従って内省的になり、自分は何をしているのだろうと考えるようになる伏線になっています。
旅行者として日本での日常から脱走し、気の向くままその土地に滞在し、その行き着いた先になにがあるのか、長い旅に自分は何を求めていたのか、色々なことを考えさせるシリーズです。 今回ご紹介したのは香港の登場する第一巻のそれも香港のことをかいた「黄金宮殿」の章だけですが、是非とも第六巻までお読みください。というか先まで読みたくなりますので初めから6巻まで買ってしまわれることをお勧めします。私も知り合いに勧められて第一巻だけ買って、翌日の昼休みには本屋に残り5巻を買いに走ったしだいです。
関 俊也著|
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マカオ ノスタルジック紀行
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