トヨタ、日産、ホンダが広州で生産を軌道に乗せ、華南を代表する産業であったエレクトロニクス産業に自動車産業が加わり、日系企業の進出が続く華南地区。それを様々な形でサポートする拠点としての香港。しかしながら、日本国内ではどちらかというと北京・上海の情報に偏り、働く場所としても北京・上海指向が強いので、現在華南で働く日本人は不足しており、そのニーズは高い。
大成功した会社の紹介ではなく、この地で働いてみようという人が先ず目指すべき成功の具体例が丁寧に書かれているのに好感を持つ。「先ず社会人としての常識」「中国語以外の売りがある人」「中国人と同じではなく、日本人のマインドと常識を」等、苦労してきた人の実感に基づいたアドバイスは私も同意するものばかりで、ここで働くことを考える人が自らをチェックするのに役立とう。
言葉が出来るより先ず社会人としてというアドバイスは正にその通りの一方で、現地にとけ込むには言葉が出来た方がスムースだということで、「広東語で働く」「英語で働く」「北京語で働く」というタイトルで16ある具体例を三つに分けて紹介。仕事内容によっては挨拶程度の言葉が出来れば後は日本語ですむ職場もあれば、その言語で専門用語を使い、香港人、中国人の同僚や部下と丁々発止でやり合わなければならない職場もある。その色々を具体例をあげ、示している。
どんなきっかけで外国に出たのか、今の仕事を始めることになったのか、就職できたのか、言葉はどこで勉強したのか、どの程度の会話能力が必要か等、バラエティーに富んだ具体例で、読者が自分にあてはめて考えやすい。
約半分がインタビューで、残り半分が「インフォメーション」とタイトルされた情報部分で構成されるこの本。ここには「旅立つ前に」から「就職活動」「働く」「住居をさがす」「暮らす」「学ぶ」という項目で必要となりそうな情報が網羅されている。この種の情報は往々にして現地生活者から見ると違うよと思う部分が見受けられるのが常だが、この本に関しては、私が気がついたのは旧式のエレベーターのドアの説明文くらいのもの。細かい所まで神経の行き届いた情報が掲載されているのは著者のお人柄だろう。
ところでこの手の本のかなりは、大成功した人、とんでもなく人並みはずれた人を登場させ、「うそ〜!」「信じられない!」等と言わせながらも読み物として読ませるスタイルではないかと思う。こんな面白いもの、おかしなものを見つけた香港でした、広東でしたという程度の重みしか持たないのがこの手の本における地域の意味。でも本著はマジメ過ぎる位にマジメに、その土地で働いてみようという人への具体的な事例、アドバイス、情報をまとめたもの。その地域に目を向ける人を作ることより、その地域に目を向けた人に現実を見せてその人の人生の選択を助けることに重点をおいていると思う。
そう思うと、具体例として出ている人達がある程度の基礎を既に築いた人ばかりであり、そこには途中での失敗が含まれ、忠告が含まれてはいても、ある意味で成功例の列挙でしかないと思う。
この本が「香港よいとこ、一度はおいで」式のその土地プロモーションの本でなく、真に悩める人の人生の選択を助ける本になるためには、あえて失敗例も入れるべきだったのではないかというのが、私の読後感でした。 (関俊也著)
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